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政府のAI関連概算要求は2兆9,392億円──令和8年度当初予算の約5.8倍、事項要求も26件

2026年9月中旬、日本政府のAI政策で3つの動きが重なりました。

  • 9月17日の内閣改造で、古川俊治氏がデジタル大臣と人工知能戦略担当の内閣府特命担当大臣を兼ねることになった
  • 9月18日、内閣府が令和9年度(2027年度)のAI関連予算の概算要求を公表した
  • 同じ9月18日、デジタル庁がガバメントAI「源内」のOSS Ver 2.0説明会(8月25日開催)の資料とFAQを公開した

予算要求額は2兆9,392億円+事項要求26件です。令和8年度当初予算のAI関連予算5,027億円と比べると、金額が明記された部分だけで約5.8倍になります。令和7年度補正予算にも別途約4,380億円のAI関連予算があるため、これは「前年度の総額」との比較ではありません。また、概算要求は各府省の「要求」の段階で、12月の政府予算案で絞り込まれるのが通例です。

本稿では、内閣府とデジタル庁の一次資料をもとに、それぞれの中身を整理します。

1. 令和9年度AI関連予算要求:何にお金をつけようとしているのか

全体像

内閣府の資料「令和9年度AI関連予算要求について」の冒頭に並ぶ数字は次のとおりです。

項目 令和9年度 概算要求 令和8年度 当初予算
金額 2兆9,392億円 + 事項要求26件 5,027億円
施策数(新規 / 継続) 132件 / 193件 20件 / 129件

ここで押さえておきたい点が3つあります。

  • 事項要求は、金額を示さずに項目だけを要求するものです。2兆9,392億円にはこの26件が含まれていません
  • 資料の注記によれば、事業費の一部だけがAI関連で金額を切り出しにくい施策は、予算総額に含まれていません
  • 比較対象の5,027億円は令和8年度の当初予算です。別に令和7年度補正予算で約4,380億円がAI関連として計上されています(内閣府「AI関連予算の推移」)

新規施策が20件から132件に増えている点も目を引きます。金額だけでなく、新しく立ち上げる施策の数も大きく増えています。

主な施策と金額

資料は、7月に閣議決定された「第Ⅱ期 人工知能基本計画」の4つの方針に沿って施策を並べています。金額が明記された主なものを抜き出すと次のようになります。

方針 施策 所管 要求額
AIを使う 中小企業等を対象としたAX促進、業務効率化・DX推進支援(新規) 経産省 約3,746億円
AIを使う 気象分野のAI技術開発・利用基盤(新規) 国交省 約305億円
AIを使う 創薬・医療分野の研究開発プラットフォーム(新規) 厚労省 約153億円+事項要求
AIを創る AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル 経産省 約8,964億円
AIを創る AI for Scienceによる科学研究の革新 文科省 約3,789億円
AIを創る AIロボティクスの中核拠点(CoE)の創設(新規) 経産省 約1,333億円
AIを創る バーティカルAIの導入・開発利用の促進(新規) 内閣府 約1,009億円
AIを創る AIの信頼性を評価する能動的評価基盤 総務省 約460億円
AIを創る 次世代情報通信基盤の研究開発等 総務省 450億円
AIと協働する 学校現場のAI活用環境整備 文科省 約884億円
AIと協働する AX実装人材を養成する大学・高専の支援(新規) 文科省 約35億円

最大の項目は経産省のマルチモーダル基盤モデル開発で、約8,964億円です。この1項目だけで、令和8年度当初予算のAI関連予算全体(5,027億円)を上回ります。

金額が書かれていない重要施策

一方で、政策上の重みがあるのに金額が示されていない事項要求もあります。

  • ガバメントAI源内の整備・運用等(デジタル庁)
  • 生成AIの計算資源の高度化に向けた研究開発「GENIAC」(経産省)
  • AIによる防衛分野の意思決定の迅速化・高度化(防衛省、新規)
  • 政府全体のサイバーセキュリティ対策パッケージ「Project YATA-Shield」(内閣官房、新規)

また、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)での高性能AIの安全性・リスク評価(内閣府、新規)は、金額を特定できない施策として注記に挙げられています。源内やGENIACといった中核事業の金額はまだ見えていないので、2兆9,392億円は「現時点で数字になっている部分」と読むのが正確です。

2. AI戦略とデジタル政策の担当大臣が一本化

9月17日の内閣改造で初入閣した古川俊治氏は、デジタル大臣に加えて、人工知能戦略・科学技術政策・サイバー安全保障・宇宙政策などを担当する内閣府特命担当大臣を務めます。

9月18日の就任記者会見(デジタル庁が要旨を公開)の質疑では、記者から「AI戦略の担当大臣とデジタル政策全般の担当大臣、これまでバラバラだったものが古川大臣に一元化されました」「経済安保大臣が担ってきたAI戦略や科学技術政策を一元的にやられて」という指摘がありました。古川大臣はこれに対し、次のように答えています。

AIとかAIエージェント、こうしたAI技術というものをデジタルの推進とともに繰り広げていく、ここが非常に重要なこれからの課題だと考えておりまして、そこで集中をして、この司令塔たるデジタル大臣と人工知能戦略、この大臣を一緒に担うことになったと理解をしております。

AI政策の方針については「利点及びリスクがございますので、そのバランスをはかりながら」「コストパフォーマンスの観点も踏まえながら、どうやって普及をさせていくか」が重要だと述べています。冒頭発言では、バーティカルAIとフィジカルAIへの官民投資を「強く豊かな日本」投資枠を活用して推進する方針にも触れました。

また、医師・弁護士という経歴を踏まえた関心分野として「医療DX、これを医療AXに」という考えも示しています。

大臣の一本化と予算要求はどちらも9月中旬の出来事ですが、資料の上では両者の因果関係は示されていません。予算要求は7月の人工知能基本計画(第Ⅱ期)と日本成長戦略を根拠にしています。

3. 源内:10月頃にAIエージェント環境を導入予定、2027年2月頃にOSS Ver 2.0を公開予定

源内の現状

デジタル庁の説明会資料によると、源内の現状は次のとおりです。

  • 40種類以上のAIアプリケーションを使える生成AI利用環境で、機密性2情報まで入力できる(ルールは各府省庁が設定)
  • 2026年5月から、全府省庁の政府職員約18万人を対象とする大規模実証を実施中
  • 源内の一部は2026年4月にOSSとして公開済み
10月頃に導入予定の「AIエージェント利用環境」

今回の説明会で最も具体的だったのは、AIエージェント利用環境です。資料は「本年10月頃、政府職員が自らの業務に応じてAIエージェントを自ら構築し、活用できる環境を導入する予定」と書いています。

背景として、資料は「Claude Codeに代表されるコーディングエージェントの利用が広がり、プログラミングに限らず、利用者が自然言語で指示し、ファイルの作成、データ分析、スキルの作成・実行及び成果物の検証までを利用者が主体的に行う活用が進展」していることを挙げています。そのうえで、あらかじめ用意したWebアプリでは、複数ファイルや大量データを使う連続作業や、行政固有の判断基準を伴う審査業務の支援に限界があると整理しています。

提供予定の環境は2つです。資料のデモ画面には、それぞれ既存製品にたとえた説明が添えられています。

環境 資料上の位置づけ 主な機能
エージェントチャット Claude Cowork相当 チャット画面から自然言語で指示し、ウェブ検索・資料生成・コード実行・スキルの作成と実行を組み合わせる
源内工房 Claude Code相当 個人専用サーバー上のコーディングAI環境。ファイル操作、コマンド実行、Deep Research、プロトタイプ開発

この2つに加えて、職員が作ったスキルを府省庁の垣根を越えて共有する「源内マーケットプレイス」も構想されています(企画・構想段階)。

「スキル」で暗黙知を形式知にする

この構想の中心にあるのが「スキル」という考え方です。資料はスキルを次のように定義しています。

従来、個々の職員や部局に属人的に蓄積されてきた業務手順、判断基準、参照資料、関連データ、確認方法、出力形式、例外処理等を、AIエージェントが実行可能な形で可視化・形式知化したもの。

資料には政府全体のスキルの規模感を見積もったページもあります。法律約2,100件と、中央省庁の課長・室長約4,000人を前提に、法律・制度に基づく業務スキルを約6,000件、課・室単位の業務スキルを約4,000件と見積もっています。そこから、政府全体で1万〜数万件規模のスキルになるという推測です。これはあくまで「イメージ」として示された推計で、目標値ではありません。

源内OSS Ver 2.0で公開予定のもの

令和9年(2027年)2月頃に公開予定のOSS Ver 2.0には、次の資材が含まれる予定です。

  • エージェントチャット
  • 源内工房
  • 基盤モデル実行環境構築テンプレート(さくらのクラウド上に基盤モデルをデプロイし、源内から接続するためのもの)
  • 利用実績データの書き出し・分析・可視化の仕組み
  • 源内マーケットプレイス(企画・構想段階)
  • 行政実務用RAG(Ver 1.0で公開済みで、大幅な更新は予定していない)

デジタル庁は、公開予定の内容はすべて開発中で、変更の可能性があるとしています。FAQでは、源内OSSは利用者を限定しておらず、民間企業や大学、医療機関(公立・民間を問わず)も使えると回答しています。

国産LLMの試用と、2027年度の調達

源内では、国内で開発された大規模言語モデルの活用も進んでいます。2026年3月の公募には15件の応募があり、7件が選ばれました。その後2社が辞退し、5社と契約しています。

企業(五十音順) モデル
NTTデータ tsuzumi 2
ソフトバンク Sarashina3 mini
日本電気(NEC) cotomi v3
富士通 Takane 32B
Preferred Networks PLaMo 2.0 Prime

今年度は一部の省庁でこれらを試用し、能力を評価します(2026年8月頃〜2027年3月)。2027年度向けには、源内で使う国産基盤モデルを有償で調達する予定です。資料のスケジュールでは、2026年11月に公募を始め、2027年4月から源内での使用を開始する計画になっています。一部のモデルは、ガバメントクラウドで唯一の国産クラウドである「さくらのクラウド」上で動かす予定です。

4. 実務者にとっての意味

3つの動きを並べると、政府はAIを「使う側」と「作る側」の両方に大きく踏み込もうとしています。

  • 予算面では、フィジカルAI・マルチモーダル基盤モデルやAIロボティクスなど「作る」側への配分が大きい。一方で中小企業向けAX支援(約3,746億円)のように「使う」側の施策も新たに立ち上がっている
  • 行政の現場では、源内がチャット型のAIアプリからエージェント型へ移ろうとしている。行政固有の判断基準を「スキル」として書き出す作業が、今後の業務改革の中心になる可能性がある
  • 源内はOSSとして公開されているので、自治体や企業が自組織のAI基盤の参照実装として使える。デジタル庁は企業に対して、省庁の業務改革とエージェント実装の支援、AIが使えるデータ・知識基盤の整備、エージェントの品質・安全性評価の支援、各省庁のAI基盤と源内の接続という4つの役割を期待すると説明している
地方自治体にとっての影響

自治体にとって、今回の一連の資料からわかることは次のとおりです。

まず、国の計画上の位置づけです。7月に閣議決定された第Ⅱ期 人工知能基本計画は、具体的な取組として「『源内』のオープンソース化の取組を通じて自治体のAI導入支援を進める」(デジタル庁)と書いています。さらに「AIによる自治体業務の構造変革(自治体AX)」を掲げ、優良なユースケースの横展開、オンライン完結の仕組み、業務の自動化などを進めるとしています(主担当は総務省)。

一方で、通常の源内サービスは中央省庁の職員向けで、自治体向けの共通AIエージェントの計画も現時点ではありません。説明会FAQの回答は次のとおりです。

論点 FAQでのデジタル庁の回答(要旨)
自治体への源内の提供 源内は政府機関の職員向け環境。自治体は業務や扱う情報が異なるため、そのままの提供は難しく、適用に工夫が必要
自治体共通のAIエージェント 計画は現在ない。国と地方のAIをつなぐ仕組みは将来の検討課題
LGWAN・マイナンバー系からの利用 検討段階。閉域デプロイできる形にしたうえで、接続方法は各自治体のクラウド設計として検討してもらう形になる
閉域環境(インターネット接続なし)での実行 検討中だが、具体的な開発計画は固まっていない
自治体固有データの取り込み 汎用的な良い設計ができればOSS公開の可能性は十分ある。事業者によるカスタマイズ・事業化を歓迎
導入規模の目安 5,000人程度なら標準的な構成で足りる。デジタル庁では1環境で2万〜2.5万人に提供できた例もある

また、令和9年度にデジタル庁が提供する源内のサービスは、原則として中央省庁だけの有償利用を予定しています。このため、自治体が平時に源内と同等の環境を使うには、当面は源内OSSを自ら導入するか、源内OSSをもとにした事業者のサービスを使うことになります。源内OSSは利用者を限定しておらず、自治体や民間企業も使えます。

ただし例外もあります。デジタル庁は2026年7月29日、令和8年熊本地震の被災自治体、関係自治体、災害対策機関などに源内の緊急提供を始めました。目的は、災害情報の集約・整理・共有をAIで行えるようにすることです。提供期間は当初3週間程度の予定でしたが9月30日まで延長され、要請のあった一部の被災自治体については令和8年度末まで再延長する予定です(9月16日時点)。災害対応に使えるAIアプリは16件あり、そのうち3件は被災自治体などの要請を受けて緊急に開発されたものです。

ただし資料は、OSSの公開は安全性や品質を担保するものではないとも明記しています。導入する組織が、インフラ、アプリケーション、基盤モデル、アクセス制御、ログ管理、保守運用の責任を自ら負います。源内OSSは完成品ではなく参照実装だという点は、自治体の側で押さえておく必要があります。

予算面では、今回の予算要求資料は「AIを使う」の最初の項目に「政府・自治体でのAIの徹底した利活用」を掲げています。ただ、一覧に載っている金額付きの主要施策の中に、自治体向けと明記されたものはありません。自治体AXの具体的な予算は、総務省などの概算要求を個別に確認する必要があります。

自治体が今後考えるべきこと(考察)

ここからは、上の一次資料を踏まえた筆者の考察です。

1つ目は、源内の自治体版を待つか、自ら動くかの判断です。国と地方をつなぐ仕組みは「将来の検討課題」とされていて、時期は示されていません。待つ間にも、源内OSSの自前導入、源内OSSをもとにした事業者サービスの利用、既存の商用生成AIサービスの継続という選択肢があります。どれを選ぶかは、職員数やIT部門の体制、扱う情報の機密性で変わります。

2つ目は、ネットワークと情報区分の整理です。LGWANからの利用は検討段階で、接続方法は「各自治体のクラウド設計」に委ねられています。どの業務のどの情報を、どのネットワーク上で、どのモデルに渡してよいのか。この線引きを先に決めておかないと、源内OSSを導入しても使える業務が限られます。

3つ目は、運用責任を持てる体制です。源内OSSは導入組織が保守運用の責任を負います。職員数の少ない市町村が単独で環境を持つのが難しい場合、導入規模の目安(標準構成で5,000人程度)を踏まえると、都道府県単位や広域連携で環境を共同利用する形も検討の余地があります。

4つ目は、業務の「スキル化」の準備です。国は、業務手順や判断基準、例外処理を書き出したものを「スキル」と呼び、政府全体で1万〜数万件規模になると推計しています。自治体でも、条例・規則に基づく審査業務や、窓口の照会対応の手順を文書にしておく作業は、どのAI基盤を選んでも無駄になりません。源内のエージェント環境が自治体向けに使えるようになったときにも、そのまま土台になります。

5つ目は、国の予算の行方を追うことです。自治体AXの優良事例の横展開やオンライン完結の仕組みが、12月の政府予算案でどの程度の規模になるのか。補助事業として形になるなら、自治体側の計画づくりの前提になります。

注意点もあります。予算は要求段階で、12月の政府予算案までに変わりえます。源内のAIエージェント環境やOSS Ver 2.0も「予定」であり、時期や内容は変わる可能性があります。

まとめ

  • 令和9年度AI関連予算の概算要求は2兆9,392億円+事項要求26件で、令和8年度当初予算5,027億円の約5.8倍(令和7年度補正の約4,380億円は含まない)。新規施策は20件から132件に増えた
  • 最大項目は経産省のマルチモーダル基盤モデル開発(約8,964億円)。一方、源内やGENIACなどの中核事業は金額未記載の事項要求になっている
  • 9月17日の内閣改造で、デジタル大臣と人工知能戦略担当が古川俊治氏に一本化された
  • 源内には10月頃にAIエージェント利用環境が導入される予定。資料は「Claude Cowork相当」のエージェントチャットと「Claude Code相当」の源内工房という2つの環境を示している。職員の暗黙知を「スキル」として形式知化し、府省庁の間で共有することを目指す
  • 源内OSS Ver 2.0は2027年2月頃に公開予定。国産LLMは5社のモデルを試用中で、2027年度向けの有償調達は11月に公募が始まる予定
  • 通常の源内サービスは中央省庁向けで、自治体向けの共通エージェントの計画は現時点でない。自治体は源内OSSを参照実装として使えるが、運用責任は導入組織が負う。熊本地震では被災自治体などへの緊急提供の例がある。LGWANからの接続や国と地方をつなぐ仕組みは検討段階

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