はじめに
2026年7月8日、SpaceXAI(旧xAI)は新しいフラッグシップモデル「Grok 4.5」を発表し、同日からAPI、Grok Build、Cursorで提供を開始しました(マスク氏は一般ユーザー向け展開を翌9日と案内)。発表のわずか2日前の7月6日には、公式アカウントが「We are now @SpaceXAI」と投稿し、2026年2月のSpaceXによるxAI買収以来続いていたブランド統合が正式に完了しています。つまりGrok 4.5は、SpaceXAIブランドとして初のフラッグシップモデルです。
イーロン・マスク氏はこのモデルを「Opus級のモデルだが、より速く、トークン効率が高く、低コスト」と位置づけました。一方で続く投稿では「社内評価ではGrok 4.5はOpus 4.7とおおむね同等だが、はるかに速い。能力・速度・低コストの組み合わせが競争力の源泉だ」とも述べており、最新のOpus 4.8と同等と主張しているわけではない点は注目に値します。
本記事では、SpaceXAI公式ドキュメント(docs.x.ai)と独立評価機関Artificial Analysisのデータを一次ソースとして、スペック・価格・ベンチマークを検証します。
基本スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| APIモデルID | grok-4.5 |
| コンテキストウィンドウ | 500Kトークン |
| パラメータ数 | 1.5兆(Grok 4.3の約3倍。マスク氏公表、Artificial Analysis掲載) |
| 知識カットオフ | 2026年2月1日 |
| 推論制御 | reasoning_effortパラメータ(low / medium / high、デフォルトhigh) |
| 対応API | Responses API、Chat Completions(OpenAI互換) |
| 組み込みツール | Function calling、Web検索、X検索、コード実行 |
APIはOpenAI互換のため、既存のOpenAIクライアントのエンドポイントをhttps://api.x.ai/v1に向け、モデル名をgrok-4.5に変えるだけで移行できます。reasoning_effortをリクエストごとに切り替えられる設計は、OpenAIのeffortパラメータやClaude Sonnet 5のeffort一本化と同じ流れで、「推論の深さはユーザーが払うコストで選ぶ」という業界標準が固まりつつあることを示しています。
価格:入力$2・出力$6
公式ドキュメント記載のAPI価格は、100万トークンあたり入力$2.00・出力$6.00です。主要モデルの標準API価格と並べると次のようになります(いずれも標準API・100万トークンあたり。Sonnet 5のみ2026年8月31日まで導入価格$2/$10が適用され、表には標準価格を記載)。
| モデル | 入力 | 出力 |
|---|---|---|
| Grok 4.5 | $2.00 | $6.00 |
| Claude Sonnet 5 | $3.00 | $15.00 |
| Claude Opus 4.8 | $5.00 | $25.00 |
単価だけ見ればOpus 4.8の半分以下ですが、後述する通りGrok 4.5の本当の強みは単価ではなくタスク完了までに消費するトークン量の少なさにあります。エージェント用途では「1トークンいくら」より「1タスクいくら」が実質コストを決めるためです。
SpaceXAI公式ベンチマーク:Opus 4.8と2勝2敗
SpaceXAIが公開した4つのベンチマークでのOpus 4.8との比較は以下の通りです。
| ベンチマーク | Grok 4.5 | Opus 4.8 | 勝者 |
|---|---|---|---|
| DeepSWE 1.0 | 62.0% | 55.75% | Grok 4.5 |
| DeepSWE 1.1 | 53% | 59% | Opus 4.8 |
| Terminal-Bench 2.1 | 83.3% | 78.9% | Grok 4.5 |
| SWE-Bench Pro | 64.7% | 69.2% | Opus 4.8 |
自社発表としては率直な数字で、4項目中2項目でOpus 4.8に負けていることを隠していません。「Opus級だが同等ではない」というマスク氏の発言と整合しています。
ただし読み方には注意が必要です。この4項目はSpaceXAIが選んで公表した自己申告値であり、第三者による再現検証はまだありません。またTerminal-Bench 2.1は実行ハーネスによってスコアが変わるベンチマークで、当ブログで先日検証したAnthropic側の公表値ではSonnet 5が80.4%、GPT-5.5(Codex CLI)が83.4%でした。ハーネス条件が揃っていない可能性を考えると、Grok 4.5の83.3%を「Sonnet 5超え」と単純に読むのは早計です。
SpaceXAIはSWE-Bench Proでのトークン効率も公表しており、タスク解決に要する平均出力トークンはGrok 4.5が15,954、Opus 4.8(max)が67,020と、約4.2倍の開きがあるとしています。
独立評価:Intelligence Index 54で4位、タスク単価はFable 5の5分の1
独立評価機関Artificial Analysisの測定では、Grok 4.5はIntelligence Indexで54を記録し、Fable 5、GPT-5.5、Opus 4.8に次ぐ総合4位でした。すべてのオープンウェイトモデルとGeminiシリーズを上回る位置です。実務タスクを測るGDPval-AA v2ではElo 1543を記録し、Opus 4.8の1600とGLM-5.2の1513の間に位置しています(Eloは相対値のため掲載時点で変動します)。
より実務に近いCoding Agent Index(コーディングエージェントとしての総合評価)では、Grok Buildハーネス上のGrok 4.5が76を記録し、Codex上のGPT-5.5(xhigh)と同点、Claude Code上のFable 5(max)にわずかに届かない水準でした。注目すべきはそのコストです。
| モデル(ハーネス) | タスクあたり平均トークン | タスクあたりコスト |
|---|---|---|
| Grok 4.5(Grok Build) | 1.9M | 約$2.5 |
| GPT-5.5 xhigh(Codex) | 6.2M | $5.07 |
| Fable 5 max(Claude Code) | 7.2M | $11.80 |
ほぼ同等のコーディングエージェント性能を、GPT-5.5のほぼ半額、Fable 5の5分の1のタスク単価で出している計算になります。Intelligence Indexのタスクでも出力トークンは約14,000とOpus 4.8比で6割少なく、SpaceXAIの「トークン効率」の主張はこの独立測定でも裏付けられました。安価な単価と少ないトークン消費の掛け算が効いており、ベンチマーク順位の差を「価格差で正当化できるか」が採用判断の軸になりそうです。
Cursorとの共同開発の成果としてのGrok 4.5
Grok 4.5の性格を理解する上で欠かせないのが、2026年6月に発表された、SpaceXによるCursor運営元Anysphereの買収合意(約600億ドル、全株式取引で2026年第3四半期クロージング予定)です。Cursor公式によれば、Grok 4.5はSpaceXAIと共同で訓練されたMixture-of-Expertsモデルで、コードベースやソフトウェアツールとのユーザー操作、開発者とエージェントの相互作用を含む数兆トークンのCursorデータが使われました。開発者がどうファイルを調べ、エラーをどう解釈し、ツールをどう使うかという「実務のループ」を学習させたことが、コーディングとエージェント性能への集中投資に表れています。
その成果はプロダクト配置にも直結しており、Grok 4.5は発表と同時にCursorの全プランで利用可能になり、SpaceXAI自身のコーディングエージェント「Grok Build」ではデフォルトモデルに採用されました。2月のxAI買収、6月のCursor買収合意、7月のブランド統合とモデル投入という流れを見ると、SpaceXが「ロケットの会社」から垂直統合AI企業へ急速に組み替わっていることがわかります。
提供範囲:EUは未提供
公式ドキュメントに記載された提供チャネルは以下の通りです。
| チャネル | 扱い |
|---|---|
| SpaceXAI APIコンソール | 提供中(EUは未提供、今月中の対応予定) |
| Grok Build | デフォルトモデル |
| Cursor | 全プランで利用可能 |
| Officeアドイン(Word / PowerPoint / Excel) | 提供 |
| モデルゲートウェイ | OpenRouter、Vercel、Cloudflare、Snowflake、Databricks Mosaic |
EUでの提供が発表時点で見送られている点は、GPT-5.6が米政府承認組織向け先行提供から始まったのと同様、フロンティアモデルの提供範囲が規制環境で分断されつつある現状を映しています。
まとめ
- Grok 4.5は2026年7月8日発表、同日からAPI・Grok Build・Cursorで提供開始(一般ユーザー向け展開は翌9日と案内)。SpaceXAIブランド初のフラッグシップで、500Kコンテキスト・API価格は入力$2/出力$6(100万トークンあたり)
- SpaceXAI公式ベンチマークはOpus 4.8と2勝2敗。マスク氏自身も「Opus 4.7とおおむね同等、ただし高速」と位置づけており、最上位性能の主張はしていない
- 独立評価ではIntelligence Index 54で総合4位。Coding Agent IndexはGPT-5.5と同点の76で、タスク単価約$2.5はFable 5の5分の1
- Cursor公式が数兆トークンのCursorデータを使ったSpaceXAIとの共同訓練を説明しており、Cursor全プラン即日対応・Grok Buildデフォルト採用と製品展開も一体
- EUは発表時点で未提供。フロンティアモデルの地域分断が今回も繰り返された
情報ソース: