競合を超えた歴史的協力——AIエージェント時代の「共通言語」が誕生
2025年12月9日、AI業界に激震が走りました。OpenAI、Anthropic、Blockの3社が、Linux Foundation傘下でAgentic AI Foundation(AAIF)を共同設立したのです。
これは単なる業界団体の発足ではありません。激しいモデル競争を繰り広げてきたOpenAIとAnthropicが、AIエージェントの標準化という共通目標のために手を組んだ、歴史的な転換点です。
AAIFに寄贈された3つのプロジェクト——AnthropicのModel Context Protocol(MCP)、OpenAIのAGENTS.md、Blockのgooseはいずれもオープンソースとして公開され、ベンダー中立な標準として発展していくことになります。
なぜ今、標準化が必要なのか
AIエージェントの「バベルの塔」問題
2025年に入り、AIエージェント(自律的にタスクを実行するAIシステム)が急速に普及しました。しかし、各社が独自のプロトコルやフォーマットを採用した結果、深刻な相互運用性の問題が発生していました。
開発者は、異なるAIプラットフォームごとに個別の統合コードを書く必要があり、これが開発コストの増大とエコシステムの断片化を招いていました。
プラットフォーム企業の「囲い込み」への懸念
もう一つの背景は、大手テック企業によるエコシステムの囲い込みへの懸念です。Linux FoundationのJim Zemlin氏は発表の中で、「単一企業がコントロールしない、オープンで中立的な標準」の重要性を強調しました。
AAIFの設立により、MCPやAGENTS.mdは特定企業の所有物ではなく、コミュニティ全体で管理されるインフラとなります。
AAIFの3つの柱:MCP、AGENTS.md、goose
1. Model Context Protocol(MCP)——月間97M+ダウンロードの業界標準
MCPは、2024年11月にAnthropicがオープンソースとして公開した、AIモデルと外部ツール・データソースを接続するための標準プロトコルです。
わずか1年で驚異的な普及を遂げました:
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| Python/TypeScript SDK月間ダウンロード | 9,700万以上 |
| 公開MCPサーバー数 | 10,000以上 |
| 採用プラットフォーム | ChatGPT、Claude、Gemini、Cursor、VS Code、Microsoft Copilot |
| 企業導入 | Block、Bloomberg、Amazon、Fortune 500企業多数 |
MCPの特徴は、「USBのような標準規格」という設計思想にあります。かつて各メーカーが独自のケーブル規格を持っていた時代から、USBによって統一されたように、MCPはAIエージェントとツールの接続を標準化します。
2. AGENTS.md——6万以上のOSSプロジェクトが採用
AGENTS.mdは、2025年8月にOpenAIがリリースした、AIコーディングエージェントにプロジェクト固有の指示を与えるためのMarkdownフォーマットです。
「エージェントのためのREADME」とも呼ばれるこのフォーマットは、リリースからわずか4ヶ月で60,000以上のオープンソースプロジェクトに採用されました。
| 採用ツール/プラットフォーム |
|---|
| Amp、Codex、Cursor、Devin、Factory |
| Gemini CLI、GitHub Copilot、Jules、VS Code |
AGENTS.mdの仕組みはシンプルです。プロジェクトのルートディレクトリや各パッケージ内にAGENTS.mdファイルを配置すると、AIエージェントが自動的にそれを読み込み、プロジェクト固有のルールに従って動作します。
例:OpenAIのメインリポジトリには88個のAGENTS.mdファイルが存在し、
各モジュールごとに異なる指示をエージェントに与えている
3. goose——ローカルファーストのエージェントフレームワーク
gooseは、決済大手BlockがMCPの普及に合わせて開発した、ローカルファーストのAIエージェントフレームワークです。
gooseの特徴:
- ローカル実行優先: データをクラウドに送信せず、ローカルで処理可能
- MCP完全対応: MCPのリファレンス実装として設計
- 拡張性: カスタムツールを簡単に追加可能
- プライバシー重視: 企業の機密データを扱うユースケースに最適
BlockのDoug Petkanics氏(gooseプロジェクトリード)は、「gooseをAAIFに寄贈することで、単一企業ではなくコミュニティによってエージェントAIの未来が形作られることを確実にしたい」と述べています。
AAIFメンバーシップ——テック業界の総力結集
AAIFの設立には、AI業界のほぼすべての主要プレイヤーが参加しています。
プラチナメンバー(8社)
| 企業 | 役割・貢献 |
|---|---|
| Amazon Web Services | クラウドインフラ、Bedrockとの統合 |
| Anthropic | MCP寄贈、Claude連携 |
| Block | goose寄贈、決済領域のユースケース |
| Bloomberg | 金融データ領域のMCP活用 |
| Cloudflare | エッジコンピューティング対応 |
| Geminiへの MCP統合 | |
| Microsoft | Windows 11でのMCPサポート、Copilot連携 |
| OpenAI | AGENTS.md寄贈、ChatGPT統合 |
ゴールドメンバー(18社)
Adyen、Arcade.dev、Cisco、Datadog、Docker、Ericsson、IBM、JetBrains、Okta、Oracle、Runlayer、Salesforce、SAP、Shopify、Snowflake、Temporal、Tetrate、Twilio
この顔ぶれを見ると、クラウド、セキュリティ、開発ツール、エンタープライズSaaSのあらゆる領域がカバーされていることがわかります。
開発者への影響——何が変わるのか
1. 「一度書けばどこでも動く」AIエージェント
MCPとAGENTS.mdの標準化により、開発者は一度ツール連携を実装すれば、Claude、GPT、Geminiなど複数のAIプラットフォームで動作させることが可能になります。
Before: 各AIプラットフォームごとに個別実装が必要
After: MCP対応で実装すれば、すべてのプラットフォームで動作
2. エンタープライズ導入の加速
Linux Foundationという中立的な組織が標準を管理することで、大企業がAIエージェントを導入する際の懸念(ベンダーロックイン、長期的なサポート、ガバナンス)が軽減されます。
市場調査によると、2025年末までに90%の組織がMCPを採用するとの予測もあります。
3. オープンソースエコシステムの活性化
AGENTS.mdがすでに6万以上のOSSプロジェクトに採用されていることからわかるように、オープンソースコミュニティがAIエージェント開発の主要なステークホルダーとなります。
日本の開発者への示唆
AAIFの設立は、日本のAI開発者・企業にとっても重要な意味を持ちます。
MCP対応ツールの開発チャンス
現在、MCPサーバーは10,000以上公開されていますが、日本語特化のツールや、日本企業向けのサービス連携はまだ少ない状況です。例えば:
- 日本の会計ソフト(freee、マネーフォワード)との連携
- 日本語文書処理に特化したツール
- 国内クラウドサービスとの統合
これらの領域でMCP対応ツールを開発すれば、国内AI市場での差別化要因となり得ます。
AGENTS.mdの活用
自社プロジェクトにAGENTS.mdを導入することで、AIエージェントとの協業が効率化されます。特に:
- コーディング規約の自動適用
- プロジェクト固有のビルド手順の伝達
- セキュリティ要件の明示
まとめ——AIエージェント時代の「HTTP」が誕生
Agentic AI Foundationの設立は、AIエージェント開発における「HTTP」や「USB」に相当する標準化の始まりと言えます。
主要ポイント
- OpenAIとAnthropicが歴史的協力:競合を超えて、エージェントAIの標準化に共同で取り組む
- MCPが事実上の業界標準に:Python/TypeScript SDKの月間ダウンロード97M+、ChatGPT・Claude・Gemini・Copilotなど主要プラットフォームが採用
- AGENTS.mdが急速普及:わずか4ヶ月で6万以上のOSSプロジェクトが採用
- ベンダー中立なガバナンス:Linux Foundation傘下で、単一企業に依存しない標準として発展
- エンタープライズ導入が加速:2025年末までに90%の組織がMCP採用との予測
2024年に始まったAIエージェントブームは、2025年のAAIF設立によって標準化と相互運用性の時代へと移行しました。開発者にとっては、これらのオープン標準を早期に習得することが、AI時代を生き抜くための重要なスキルセットとなるでしょう。


